底辺ロー卒生のブログ(答案の墓場)

H30から司法試験を受けている底辺ロー卒生が書いた答案UPしたりして、閲覧している皆様にご批評して頂くためのブログ

H27年度京大ロー入試刑法再現答案

※点数は 59/100  でした。

第1問

第1 甲の罪責

 1 本件において、甲がXを殴打し死に至らしめた行為に傷害致死罪(205条)が成立しないか。

  (1) まず、甲はXの左側頭部という身体の枢要部に対して殴打行為を加えているため、かかる行為は人の生理機能に障害を与える程度の暴行といえ、「傷害」に当たる。

  (2) 次に、甲はXに傷害を負わせるつもりであったため、傷害の故意はあったと認められるが、死の結果について過失があったかは不明である。

    しかし、傷害致死罪は結果的加重犯であるところ、結果的加重犯においては基本犯の実行行為に重い結果発生の高度の危険性が内包されていることから、重い結果の発生について過失は不要であると考えられる。

    そこで、基本犯の実行行為と重い結果の間に因果関係が認められれば、結果的加重犯は成立すると考える。

  (3) では、本件において上記行為とXの死の間に因果関係は認められるか。

    この点、本件では甲が単独でXを殴打した行為(以下、第一行為)と、甲が乙と共同でXを殴打した行為(以下、第二行為)の両方が存在しているところ、甲はその両方に関与しているので、両方の行為について帰責することができる。

    そして、左側頭部に殴打を受けた者が脳内出血を起こし死ぬことは社会通念上相当であるので、上記行為とXの死の間には因果関係が認められる。

    したがって、上記行為は傷害致死罪の構成要件を充足する。

  (4) もっとも、甲はXがバットを振りかざして飛び出してきたことから上記行為を行っている。そのため、上記行為に正当防衛(36条1項)が成立し、違法性が阻却されないか。

   ア まず、本件では第一行為と第二行為が存在しているところ、両者は共にXに対する傷害の故意の下、時間的・場所的に近接して行われているため、一連の行為として評価すべきであると考える。

   イ 次に、Xは「殺してやる」と叫びながらバットという硬質の凶器を振りかざして甲に向かってきているので、甲の生命・身体に対する「急迫不正」の「侵害」が認められる。

   ウ また、甲は自らの生命・身体を守るために上記行為を行っているため、「防衛のために」上記行為を行ったといえる。

   エ もっとも、第二行為の時点では人数的にXは不利となっており、侵害の意思は失われていたと考えられることから、第二行為の時点で殴打行為は質的にも量的にも過剰であったといえる。

オ したがって、上記行為は過剰防衛(37条2項)として「やむを得ずにした行為」であるとはいえず、正当防衛は成立しない。

 2 よって、上記行為に傷害致死罪が成立し、かかる罪責を甲は負う。なお、後述のように傷害罪の範囲で乙と共同正犯となる。

   そして、上記行為には過剰防衛が成立するので、刑が任意的に減免される。

 3 なお、甲がXのバットを投げ捨てた行為は、物の効用を害する一切の行為たる「損壊」に当たるため、器物損壊罪(261条前段)の構成要件を満たすが、甲はXの侵害を防ぐために上記行為を行っているため、正当防衛が成立し、違法性が阻却される。したがって、器物損壊罪は成立しない。

第2 乙の罪責

 1 乙が甲と共にXを殴打した行為に傷害致死罪の共同正犯(60条、205条)が成立しないか。

  (1)ア この点、共同正犯の一部実行全部責任の原則の根拠は、相互利用補充関係に基づいて特定の犯罪を実現することにある。

そこで、共同意思と共同行為を満たせば共同正犯が成立すると考える。

   イ これを本件についてみると、乙は甲の助けてくれという依頼に承諾し、甲と共にXを殴打していることから、共同意思も共同行為も認められる。

  (2) もっとも、Xの死亡の原因たる脳内出血は第一行為が第二行為のいずれから生じたか不明であるため、「疑わしきは被告人の利益に」の原則から、第二行為にのみ関与した乙はXの死の結果についてまで帰責されない。

  (3) そこで、第一行為についても乙に帰責することはできないか。いわゆる承継的共同正犯の成否が問題となる。

   ア この点、前述した共同正犯の一部実行全部責任の原則の根拠から、後行者が、先行者の行為及び結果を自己の犯罪のために利用する意思の下、先行者に加担し、現に自己の犯罪を実現したときには、承継的共同正犯が成立すると考える。

   イ これを本件について見ると、乙が甲の第一行為を自己の犯罪のために利用したという事情は特に見受けられない。

     したがって、承継的共同正犯は成立しない。

  (4) もっとも、同時傷害の特例(207条)の適用により、第一行為について乙に帰責できないか。

    まず、同条は意思連絡のない者の間における暴行について、どちらの暴行により結果が発生したのかがわからない場合に両者に結果を帰責させるための規定であるところ、意思連絡がある場合を殊更に排除する規定ではないため、意思連絡がある共同正犯にも適用はあると考える。

    そして、判例は同条が政策的規定であることを理由に、傷害致死罪についても同条の適用はあるとしている。

    しかし、同条はあくまでも「傷害した場合」と規定しており、傷害致死罪についても同条の適用を認めることは罪刑法定主義の観点から認められないと考える。

    したがって、傷害致死罪については、同条の適用はないため、本件でも同条の適用はない。

 2 よって、乙の上記行為に傷害致死罪の共同正犯は成立せず、傷害罪の共同正犯にとどまる。

   かかる罪責を乙は負う。

 3 なお、甲および乙は救急車を呼んでいるため中止犯(43条ただし書)の成否が問題となるが、同条は未遂における規定であり、Vが死亡し既遂に達している本件では成立しない。

 

第2問

1 まず、甲が殺意をもってXを絞殺した行為に殺人罪(199条)が成立する。

2 次に、甲が借用書を処分するためにマンションの共用部に立ち入った行為は、かかる意思を有する者が共用部に立ち入ることをマンションの管理人が知っていれば拒否したと考えられるため、管理権者の意思に反する立入り、すなわち「侵入」に当たる。

したがって、かかる行為に住居侵入罪(130条前段)が成立する。

3 次に、甲がマッチで508号室に火を放った行為に非現住建造物放火罪(109条1項)が成立しないか。

 (1) まず、508号室に独居老人であるXしか住んでおらず、かつ上記行為時Xは既に甲に殺害されていたことから、508号室は「現に人が住居に使用せず、かつ、現に人がいない建造物」に当たる。

 (2) また、火はマッチを離れ床や壁を独立して燃焼する状態に達していたことから、甲は508号室を「焼損」したといえる。

 (3) したがって、上記行為に非現住建造物放火罪が成立する。

4 次に、甲がダイニングテーブルから100万円を持ち去った行為に窃盗罪(235条)が成立しないか。

 (1) まず、100万円はXの所有物であるため「他人の物」に当たる。

 (2) 次に、「窃取」とは占有者の意思に反して財物の占有を自己又は第三者に移転する行為をいうところ、本件において100万円の占有者であるXは既に亡くなっている。そのため、本件100万円は他人の占有する財物に当たらず、上記行為は「窃取」とならないのではないか。いわゆる死者の占有が問題となる。

   この点、占有とは財物に対する事実上の支配をいい、その有無は占有の意思及び占有の事実の観点から判断する解されるところ、死者には占有の意思も占有の事実も存しないため、死者の占有は認められない。

   もっとも、死者を殺害した犯人との関係では、殺害との時間的場所的近接性が認められる限り、死者の生前の占有は規範的にみてなお刑法的保護に値すると考える。

   これを本件について見ると、甲はXを殺害した者であり、甲はXを殺害してすぐ、殺害場所である公園付近のXが居住していた508号室で100万円を持ち去っている。

   したがって、100万円に対するXの占有はなお刑法的保護に値するので、上記行為は「窃取」に当たる。

 (3) また、甲は生活の足しにするために100万円を持ち去っているため、窃盗の故意も不法領得の意思も認められる。

 (4) したがって、上記行為に窃盗罪が成立する。

5 以上より、上記各行為に①殺人罪、②住居侵入罪、③非現住建造物放火罪、④窃盗罪が成立する。そして、②と③、②と④は目的・手段の関係にあるためそれぞれ牽連犯(54条1項後段)となり、③、④は②をかすがいとして科刑上一罪(54条1項後段)となる。これと①は別個の行為によるため、併合罪(45条前段)となる。

かかる罪責を甲は負う。

6 なお、本件における放火行為について、508号室自体を媒介物として、マンション全体を焼損せしめようとしたとして現住建造物放火罪の成立を構成できなくもないが、これは認められないと考える。

  本件マンションは優れた耐火構造及び他の区画に延焼しにくい作りになっていたため延焼可能性はなく、加えて甲には現住建造物放火の故意が認められないと思われるからである。

  また、有毒ガスが発生したとの事情については、甲がこの有毒ガスによりマンション住人の身体を害する意図を有していた場合には傷害罪(204条)が成立し得るものの、本件ではそのような事情はなく、また現に身体を害された者はいないため重過失傷害罪(211後段)も成立しないため、本件では上記甲の罪責に何ら影響は与えないと考える。