H27年度京大ロー入試民法再現答案
※点数は60/100でした。
第1問
第1 問1
1 設問前段
本件において、CはBに対して、BのAに対する貸金債権が時効消滅したことから、これにより1番抵当権が付従性により消滅したとして、抹消登記手続請求を行うことが考えられる。
(1) この点、消滅時効は権利を行使できるときから(166条1項)、10年が経過することにより生じる(167条1項)ところ、本件ではBのAに対する貸付債権の弁済期である2005年9月1日から 10年以上経過している。
そのため、本件貸付債権の消滅時効は生じている。
(2) もっとも、消滅時効を援用できるは「当事者」のみであるところ(145条)、Aの物上保証人であるBは「当事者」に当たるか。当事者の意義について明文がないことから検討する。
ア この点、時効制度の趣旨は、永続した事実状態の尊重のみならず、時効発生を望む当事者の意思を尊重することにある。
そうだとすれば、「当事者」は真に時効発生を望む者に限定されるべきである。
そこで、「当事者」とは直接的に時効発生の利益を受ける者をいうと考える。
イ この点、物上保証人は時効発生により自己の財産が競売の対象にならなくなるので、時効発生により直接的に利益を受ける者であるといえる。
したがって、物上保証人は「当事者」に含まれる。
(3) よって、Cも「当事者」に当たるので、BのAに対する貸金債権は時効消滅し、これにより1番抵当権も付従性消滅するので、上記請求を行うことができる。
2 設問後段
本件においてもCはBに対して設問前段と同様の請求を行うと考えられるところ、本件では設問前段とは異なり、Aは2009年9月1日に「借金は必ず返すから返済を猶予してほしい」旨の念書をBに渡している。
そのため、消滅時効が中断(147条)し、BのAに対する貸金債権は消滅していないことから、1番抵当権も付従性により消滅せず、Cの請求は認められないのではないか。
(1) まず、Aが本件念書をBに渡したことは、本件貸金債権の存在を認めることであるので、時効消滅事由たる「承認」(147条3号)に当たる。
(2) では、かかる時効中断の効果がCに及ぶか。物上保証人Cが時効中断の効果の及ぶ「当事者」(148条)に当たるかについて検討する。
この点について、物上保証人は消滅時効を援用できる地位にあるにもかかわらず、時効中断の効果が及ばないとすれば、一方的に物上保証人を保護することになり妥当ではない。
また、物上保証人は消滅時効が到来するまで債務者の債務を保証することを通常覚悟していると考えられる。
したがって、物上保証人は時効中断の効果が及ぶ「当事者」に含まれると考える。
(3) よって、Cは「当事者」に当たり、時効中断の効果が及ぶため、Cは上記請求を行うことができない。
第2 問2
1 β債権の債務者がAの場合
本件において、DはBに対し、BのAに対する貸金債権が時効消滅したと主張し、これにより1番抵当権も付従性により消滅したとして、抹消登記手続請求を行うことが考えられる。
かかる請求を行うためには、2番抵当権者たるDが消滅時効を主張できる「当事者」(145条)に当たる必要がある。
この点、2番抵当権者は通常、1番抵当権の消滅により競売の際の配当額が増加するという反射的な利益しか有していない。
したがって、2番抵当権者は時効により直接的な利益を受ける「当事者」には当たらない。
よって、Dは「当事者」に当たらないから、上記請求を行うことはできない。
2 β債権の債務者がEの場合
(1) 本件において、DはBに対してβ債権の債務者がAの場合と同様の請求を行うことが考えられるところ、前述のようにDは「当事者」ではないためかかる請求を行うことはできない。
(2) そこで、Dはβ債権を被保全債権として、Aの時効援用権を代位(423条)し、BのAに対する貸付債権の時効消滅を主張することが考えられる。
ア まず、債権者代位権の援用の可否が問題となるも、債権者代位権について「すべての債権者のために」(425条)という文言がないことから、可能であると考える。
イ また、あくまでも債権者代位権の転用の場面であることから、債務者の資力の有無は問題にならない。
ウ したがって、DはAの時効援用権を代位し、貸付債権の時効消滅を主張できる。
第2問
第1 問1
1 まず、Xは賃借権(601条)に基づく妨害排除請求として、Zに柵の撤去を求めることが考え有られる。
この点、債権たる賃借権に基づいて賃貸人以外の第三者に物権的請求ができるか問題となるも、賃借権登記のなされた賃借権は地上権の同様の機能を有するため、登記がなされていれば可能であると考える。
したがって、乙地について賃借権登記がなされていれば、XはZに上記請求を行うことができる。
2 次に、Xは乙地の使用収益権を被保全債権として、Yの乙地所有権に基づく妨害排除請求権を代位行使(423条1項)し、Yに柵の撤去を求めることが考えられる。
(1) まず、かかる債権者代位権の転用が認められるか問題となるも、債権者代位権には「全ての債権者のため」(425条)のような文言がないため、可能であると考える。
(2) また、あくまでも債権者代位権の転用の場面であるため、債務者の資力の有無は問題とならないと考える。
(3) したがって、XはYに上記請求を行うことができる。
3 また、XはXY間の賃貸借契約に基づいて乙土地を占有しているため、Yに対して占有保持の訴え(198条)により柵の撤去を請求することができる。
第2 問2
1 まず、XY間の賃貸借契約においては、1m2単価1000円として月額330万円の賃料をXが支払う合意がされているところ、乙地は3300m2ではなく3200m2であったため、Xが支払うべき賃料は月額320万円に減少する。
そのため、XはYに対して賃料の減額請求(563条1項、559条、601条)を行うことが考えられ、かかる請求は認められる。
2 次に、3200m2では賃借の目的である病院の開設ができないとXが考えた場合には、XはXY間の賃貸借契約を解除(563条2項、559条、601条)することができる。
3 さらに、XはYに対して病院を開設できないことによって生じた損害の賠償請求(563条3項、559条、601条)を行うことが考えられる。
(1) この点、損害の範囲については416条が規定しているところ、同条の趣旨である損害の公平な分担の理念にかんがみ、同条1項は損害との相当因果関係について規定し、同条2項はその基礎となる事情について規定したものであると考える。
(2) このことを元に本件においてXに生じた損害について検討する。
まず、病院の設計変更に伴う600万円の費用については、賃借する土地の減少によって当然生じる通常損害であるといえる。
また、病院開業の延期による1200万円の減収についても、賃借する土地の減少により病院が開設できない結果当然生じる通常損害である。
(3) したがって、XはYに対して1800万円の損害賠償請求を行うことができる。
以上