底辺ロー卒生のブログ(答案の墓場)

H30から司法試験を受けている底辺ロー卒生が書いた答案UPしたりして、閲覧している皆様にご批評して頂くためのブログ

H30司法試験刑法再現答案

※妄想の産物

第1 設問1

1 乙がPTA役員会で「2年生の数学を担当する教員がうちの子を殴った」と発言した行為に、信用毀損罪(233条)は成立しない。同罪の保護法益は経済社会における人の信用であるところ、上記行為はかかる法益の毀損に向けられたものではないためである。

2 では、上記行為に名誉毀損罪(230条1項)は成立するか。

 (1) 上記行為はPTA役員会において発せられたものであるところ、PTA役員会に出席していたのは、乙を除くとA高校校長、保護者3名の4人に過ぎなかった。そのため、「公然と」事実を摘示したものとはいえないとも思える。

   もっとも、特定少数者に対して行われたものであっても、その特定少数者を介して不特定多数者に伝播する可能性が認められる場合には、外部的名誉への侵害の危険性が認められるので、「公然」性が認められると考える。

   乙は、PTA役員会にて、教員が生徒に対して暴行を行ったことを内容とする発言を行っている。PTAは教員と保護者の相互連絡の機会を持つ場であるところ、このような発言が仮に真実であるなら、教員と保護者の間の信頼関係は崩れるため、A高校校長としてもPTA役員の保護者としても、事実関係を明らかにするために周囲の教員や生徒に対して調査を行うことが考えられる。そうすると、上記行為により、A高校校長、PTA役員の保護者を介して不特定多数者に伝播する可能性が認められるから、「公然」性が認められる。

 (2) 乙は「2年生の数学の教員が」暴行を行ったと発言するのみで、それが丙であるとはしていない。もっとも、A高校の2年生の数学を担当するのは丙しかいなかったことから、実質的に丙が暴行を行ったと発言しているに等しいことから、具体的な「人の」名誉に向けられたものであるといえる。これにより、A高校校長を介して教員25名全員に丙が甲に暴力を振るったとの話が広まったため、丙の「名誉」は「毀損」されたといえる。

   そして、乙には同罪の故意(38条1項)も認められる。

 (3) したがって、上記行為は同罪の構成要件を満たす。なお、実際には丙は甲を殴ってはいなかったものの、摘示内容の真実性は230条の2で問題となるものであるから、構成要件該当性の時点では問題とはならない。

 (4) 丙は私人であるから、230条の2は検討の余地はない。

 (5) また、乙はPTA役員として、教員が生徒に暴行したとの問題があった場合には、速やかにこれを調査するよう学校に求める義務を負っているものの、本件では丙が甲に暴行を行ったとの事実自体虚偽であり、また、乙は丙への個人的な恨みから上記行為を行っており、義務の履行として行ったものではないから、正当行為(35条1項)による違法性阻却事由も認められない。

 (6) よって、上記行為に名誉毀損罪が成立する。

第2 設問2

1 甲が乙を放置した行為について、殺人未遂罪(199条、203条)と保護責任者遺棄罪(218条)のいずれが成立するか。

2 殺人未遂罪が成立するとの立場

 (1) まず、上記行為が「殺」す行為に当たるか。199条は「殺」すと作為形式で実行行為を規定していることから、不作為による殺人の実行行為が認められるかが問題となる。

  ア 実行行為とは、構成要件的結果発生の現実的危険性を有する行為をいうところ、不作為によってもかかる危険性を惹起することは可能であるから、不作為であっても実行行為たり得る。もっとも、およそ全ての不作為が実行行為たり得るとすれば、処罰範囲が拡大しすぎ、刑法の自由保障機能の観点から妥当ではない。

    そこで、不作為については、作為と構成要件的同価値性が認められる場合、すなわち、①作為義務があったにもかかわらず、これを怠り、かつ、②作為が可能かつ容易であったにもかかわらずこれを怠った場合に、実行行為性が認められると考える。

  イ 本件では、甲が乙を介助することは容易であるとの事情があるから、②については問題なく認められる。

 問題は①についてである。作為義務の発生根拠は、法令のみならず、契約や慣習、条理等からも求められる。本件で、乙は甲の父であったところ、家族は共に扶け合うべきであるとの考えが我が国においては定着していることから、甲は条理上、乙を介助する義務を負っていたといえる。また、乙が倒れていたのは夜間人通りのない山道脇の駐車場であり、周囲に人もいなかったことから、乙の生命の安全は甲の排他的支配下にあったといえる。そうすると、甲には、乙を介助する義務があったといえ、甲はこれを懈怠しているから、①も認められる。

  ウ したがって、放置行為に実行行為性は認められる。

(2) 放置行為を行った時点で、乙の生命侵害に対する現実的危険が惹起されたといえるから、「実行に着手」(43条本文)したものと認められる。甲は死亡していないから、既遂ではない。

(3) そして、甲は、乙が崖から転落する危険があることを認識しながら、それでも構わないとして乙を放置しているため、未必の故意が認められる。

 (4) よって、上記行為に殺人未遂罪が成立する。

3 保護責任者遺棄罪成立論者からの反論

  上記行為に保護責任者遺棄罪が成立するとの立場からは、上記行為に殺人の実行行為性が認められないとして、殺人未遂罪は成立しないと反論することが考えられる。

 (1) 確かに、家族は共に扶け合うべきであるとの考えが我が国においては定着していることから、条理上、甲は乙を介助する義務がある。もっとも、義務違反が殺人罪の実行行為たり得るためには、義務違反により人が死亡する現実的危険性があるといえる程度のものである必要がある。

   本件では、乙は意識を失っていたものの、怪我の程度は軽傷であり、この怪我によって乙が死に至る可能性は無かった。また、乙が倒れた場所と崖からの距離は10メートルと離れており、乙が目を覚ました後直ちに崖下へ転落する蓋然性も無かった。そうすると、本件介助義務は、介助義務違反により、乙が死亡する現実的危険性があるといえる程度のものではなく、作為との構成要件的同価値性が認められないというべきである。

 (2) また、排他的支配についても、判例は行為者が先行行為等により生命への危険を生じさせた場合に、排他的支配の有無を重視しているところ、本件では甲は乙に対して何らの先行行為を行っていないから、このことからも、作為義務は否定する方向に働く。

 (3) 以上から、上記行為に殺人未遂罪は成立しない。

   そして、上記行為は、介助義務という「保護する責任のある」甲が、「病者」である乙を放置するという「必要な保護をしなかった」ものであり、故意も認められることから、かかる行為に保護責任者遺棄罪が成立する。

   私見もこれに従う。

第3 設問3

1 甲の主張は、換言すると、丁を救助する義務はないため、丁を放置した行為は「殺」す行為に当たらないから、殺人未遂罪は成立しないというものである。これは、いわゆる不能犯を主張するものと解釈できる。

2 殺人未遂罪が成立するとの立論

 (1) 実行行為とは、構成要件的結果発生の現実的危険性を有する行為であるところ、行為は主観と客観の統合体であるから、かかる危険性の有無を判断するにあたっては、主観も考慮すべきである。そして、構成要件は一般人に規範として与えられているから、主観は一般人を基準として判断を行うべきである。

   したがって、行為時に一般人が認識し得た事情を基礎にして,当該行為の危険の有無を判断すべきであると考える。

 (2) 本件では、丁と乙は体格や着衣が似ており、夜間で街灯がなく暗かったことから、丁と乙の見分けがつかない状況であった。そうすると、一般人を基準とすると、甲が放置したのは乙であったということになり、親である乙に生じた危難から救助する義務を懈怠する行為には乙の死亡の現実的危険性が認められるので、かかる放置行為に実行行為性が認められる。

 (3) また、甲は主観では乙を放置し、客観では丁を放置しているものの、前述の検討を踏まえると、両者は共に「甲が救助義務を負う者」として重なり合いが認められるので、故意は問題なく認められる(具体的事実の錯誤)。

 (4) したがって、放置行為に殺人未遂罪が成立する。

                                    以上