底辺ロー卒生のブログ(答案の墓場)

H30から司法試験を受けている底辺ロー卒生が書いた答案UPしたりして、閲覧している皆様にご批評して頂くためのブログ

H30司法試験民法再現答案

※設問1は京大ロー系が有利な問題だったらしいですが、設問2・3でそのアドはすべて失われました。論パ貼り職人にはつらい試験でした。

第1 設問1

1 BはAに対して、売買契約(民法(以下法名省略)555条)に基づく代金支払請求を行っているところ、本件では目的物たる松茸5㎏と代金50万円の合意が成立しているため、請求原因を満たす。

2 Aは、松茸5㎏が引き渡されていないため、同時履行の抗弁権(533条)により、代金支払を拒むことが考えられる。もっとも、本件では松茸5㎏は何者かに盗み出されており、松茸の引渡しは履行不能(543条)であるため、同時履行は不可能であるとも思える。

  もっとも、Aとしては、松茸5㎏の引渡しは種類物債権(401条1項)であるところ、未だ松茸5㎏は「特定」していないため、Bはなお引渡債務を負うから、同時履行の抗弁権は認められると反論する。そこで、本件において松茸5㎏特定のための「必要な行為を完了し」たといえるか検討する(401条2項)。

(1) 本件では、松茸5㎏の引渡しはB所有の乙倉庫で行うとの「特段の合意」(483条)がなされていたため、松茸の引渡しは取立債務であった。取立債務においては、単に引渡しの準備が整ったことを通知するのみならず、他の種類物と区別できるよう分離されて初めて、「必要な行為を完了し」たとして、特定がなされると考える。

(2) 本件では、Bは松茸5㎏の箱詰めを行っており、他の松茸と判別可能な状態に分離した上で、引渡しの準備ができたとの通知をAに行っている。したがって、松茸5gは特定されたといえる。

(3) そうすると、特定物たる松茸5㎏が盗難により滅失しているため、引渡債務は履行不能となっている。したがって、Aの同時履行の抗弁権は認められない。

3 そこで、Aとしては、履行不能に基づく解除(543条)により、代金支払債務も遡及的に消滅するため、代金を支払う必要はないと主張することが考えられる。かかる主張が認められるためには、履行不能がBの「責めに帰すべき事由」によることが必要である。では、Bに「責めに帰すべき事由」は認められるか。

 (1) 「責めに帰すべき事由」とは、故意、過失及び信義則上これと同視すべき事由をいう。ここで、履行補助者を用いている場合、債務者は履行補助者により利益を得ている以上、不利益も負担すべきであるという考えから、履行補助者の故意・過失も信義則上同視すべき事由に含まれると考える。

 (2) 本件で、Bは収穫期に雇っているCと共に作業を行っているため、CはBの履行補助者である。

  そして、CはBの指示により、乙倉庫を二重に施錠することで松茸5gを保管する善管注意義務(400条)を負っていたところ、平成29年9月22日、これをうっかり忘れて簡易な施錠しか行っていなかったことから、善管注意義務違反が認められる。

   したがって、Bには「責めに帰すべき事由」が認められるとも思える。

 (3) もっとも、本件では、AB間の約定により、引渡日は平成29年9月21日であったところ、Aが乙倉庫に来なかったという事情がある。この時点で、Aには受領遅滞(413条)が生じている。受領遅滞責任は、債務者に過度の負担を負わせないために設けられた法定責任であり、受領遅滞があった日以降は、債務者は目的物の保管につき、善管注意義務ではなく、自己物に対する注意義務(659条参照)を尽くせば足りると考えられる。

   本件で、Cが簡易な施錠を行ったのは、受領遅滞後の平成29年9月22日であり、簡易な施錠を行ったことをもって、自己物に対する注意義務は尽くされたといえる。

   したがって、Bには「責めに帰すべき事由」が認められない。よって、Aの主張は認められない。

4 そして、本件松茸5㎏の引渡債務は、盗難という当事者双方の責めに帰すことができない事由により消滅しており、かかる債務は物権の移転を目的とするものであるから、債権者主義(534条1項)の適用により、売買代金債務は存続する。

  よって、BはAに対して、代金支払請求を行うことができる。

第2 設問2

1 小問(1)

(ア)の発言は、換言すると、AD間の所有権留保売買契約により、甲トラックの所有権はAにあるため、Dは収去権限を有さないというものである。かかる主張が認められるかは、所有権留保売買契約の法的性質によるため、検討する。

 (1) 売買契約の形式を重視する立場からは、甲トラックの所有権はなおDに留保されているため、所有権がAに移転しているとのDの主張は認められず、Dは収去権限を有するになる。

 (2) もっとも、所有権留保の実質は、売買代金の担保にあり、所有権留保売買契約により、売主は一種の担保権を取得するものと考えるべきである。そうすると、本件所有権留保売買契約により、甲トラックの所有権はAに移転し、Dは担保権を有するにとどまる。

   したがって、Dは甲トラックについて収去権限を有さないため、Dの主張は認められる。

 (3) なお、AD間の特約④は、甲トラックの改造を禁じるものであるが、Aは所有権に基づき本来自由に甲トラックを改造できるにもかかわらず、これができないとされていることは、甲トラックの所有権を有するのはAではなくDであるとの判断に結びつく事情といえる。もっとも、これは、甲トラックに係る担保価値を減少させないための特約とも評価できるため、この一事をもって、上記判断が覆ることはない。

2 小問(2)

(イ)の発言は、換言すると、甲トラックに自身の登録名義が残っている一事をもって、Dが収去義務を負うことはないというものである。Eの請求が認められるためには、Dに収去義務が存することが必要であるから、かかる主張が認められるかについて検討する。

 (1) これについて、所有権を侵害されている者にとっては、トラックの登録名義を確認することでしか収去請求の相手方を知ることができない。また、所有権留保売買契約という性質上、登録名義をなおDのままにしなければならなかったとしても、それは当事者間の事情にすぎず、これを所有権侵害の相手方に主張することはできないというべきである。

   そうすると、Dは、所有権喪失を主張する正当な利益を有する「第三者」(登録名義制度による動産であるため、177条)には当たらず、所有権の喪失をEに対抗できないと考える。

 (2) したがって、Eの請求は認められる。

第3 設問3

1 本件遺言の解釈

 (1) 本件遺言は、Aの積極財産のうち、1200万円をFに、600万円をGに相続「させる」としているところ、かかる相続「させる」旨の遺言は、遺言による相続分の指定(902条1項)と解釈すべきである。

 (2) また、本件遺言は、Hに200万円を与えるとしている。ここで、HについてはF,Gとは異なり、

「させる」ではなく「与える」という文言を用いていること、「廃除の意思を変えるものではない」としていることを併せて考えると、Cとしては、Hが廃除により相続人ではないことを前提として、200万円を遺贈(964条)したものと解釈すべきである。

 (3) (2)より、Cの相続人はF、Gのみであり、(1)に照らすと、相続分は、Fが3分の2、Gが3分の1であると解釈すべきである。

2 FのGに対する請求

  Fとしては、Cの代わりにGに支払った300万円のうち、折半した150万円について、Gに対して支払ってほしいと考える。もっとも、前述のように、相続分はFが3分の2であり、Gが3分の1である。また、積極財産をより多く相続したものが、消極財産についてはこの限りではないという主張を行うことを認めるべきではない。

  したがって、FはGに対して100万円に限り、支払を求めることができる。

                                   以上