底辺ロー卒生のブログ(答案の墓場)

H30から司法試験を受けている底辺ロー卒生が書いた答案UPしたりして、閲覧している皆様にご批評して頂くためのブログ

H27年度京大ロー入試民法再現答案

※点数は60/100でした。

第1問

第1 問1

 1 設問前段

   本件において、CはBに対して、BのAに対する貸金債権が時効消滅したことから、これにより1番抵当権が付従性により消滅したとして、抹消登記手続請求を行うことが考えられる。

  (1) この点、消滅時効は権利を行使できるときから(166条1項)、10年が経過することにより生じる(167条1項)ところ、本件ではBのAに対する貸付債権の弁済期である2005年9月1日から 10年以上経過している。

    そのため、本件貸付債権の消滅時効は生じている。

  (2) もっとも、消滅時効を援用できるは「当事者」のみであるところ(145条)、Aの物上保証人であるBは「当事者」に当たるか。当事者の意義について明文がないことから検討する。

   ア この点、時効制度の趣旨は、永続した事実状態の尊重のみならず、時効発生を望む当事者の意思を尊重することにある。

     そうだとすれば、「当事者」は真に時効発生を望む者に限定されるべきである。

     そこで、「当事者」とは直接的に時効発生の利益を受ける者をいうと考える。

   イ この点、物上保証人は時効発生により自己の財産が競売の対象にならなくなるので、時効発生により直接的に利益を受ける者であるといえる。

     したがって、物上保証人は「当事者」に含まれる。

  (3) よって、Cも「当事者」に当たるので、BのAに対する貸金債権は時効消滅し、これにより1番抵当権も付従性消滅するので、上記請求を行うことができる。

 2 設問後段

   本件においてもCはBに対して設問前段と同様の請求を行うと考えられるところ、本件では設問前段とは異なり、Aは2009年9月1日に「借金は必ず返すから返済を猶予してほしい」旨の念書をBに渡している。

   そのため、消滅時効が中断(147条)し、BのAに対する貸金債権は消滅していないことから、1番抵当権も付従性により消滅せず、Cの請求は認められないのではないか。

  (1) まず、Aが本件念書をBに渡したことは、本件貸金債権の存在を認めることであるので、時効消滅事由たる「承認」(147条3号)に当たる。

  (2) では、かかる時効中断の効果がCに及ぶか。物上保証人Cが時効中断の効果の及ぶ「当事者」(148条)に当たるかについて検討する。

    この点について、物上保証人は消滅時効を援用できる地位にあるにもかかわらず、時効中断の効果が及ばないとすれば、一方的に物上保証人を保護することになり妥当ではない。

    また、物上保証人は消滅時効が到来するまで債務者の債務を保証することを通常覚悟していると考えられる。

    したがって、物上保証人は時効中断の効果が及ぶ「当事者」に含まれると考える。

  (3) よって、Cは「当事者」に当たり、時効中断の効果が及ぶため、Cは上記請求を行うことができない。

第2 問2

 1 β債権の債務者がAの場合

本件において、DはBに対し、BのAに対する貸金債権が時効消滅したと主張し、これにより1番抵当権も付従性により消滅したとして、抹消登記手続請求を行うことが考えられる。

かかる請求を行うためには、2番抵当権者たるDが消滅時効を主張できる「当事者」(145条)に当たる必要がある。

この点、2番抵当権者は通常、1番抵当権の消滅により競売の際の配当額が増加するという反射的な利益しか有していない。

したがって、2番抵当権者は時効により直接的な利益を受ける「当事者」には当たらない。

よって、Dは「当事者」に当たらないから、上記請求を行うことはできない。

 2 β債権の債務者がEの場合

  (1) 本件において、DはBに対してβ債権の債務者がAの場合と同様の請求を行うことが考えられるところ、前述のようにDは「当事者」ではないためかかる請求を行うことはできない。

  (2) そこで、Dはβ債権を被保全債権として、Aの時効援用権を代位(423条)し、BのAに対する貸付債権の時効消滅を主張することが考えられる。

   ア まず、債権者代位権の援用の可否が問題となるも、債権者代位権について「すべての債権者のために」(425条)という文言がないことから、可能であると考える。

   イ また、あくまでも債権者代位権の転用の場面であることから、債務者の資力の有無は問題にならない。

   ウ したがって、DはAの時効援用権を代位し、貸付債権の時効消滅を主張できる。

 

第2問

第1 問1

 1 まず、Xは賃借権(601条)に基づく妨害排除請求として、Zに柵の撤去を求めることが考え有られる。

   この点、債権たる賃借権に基づいて賃貸人以外の第三者に物権的請求ができるか問題となるも、賃借権登記のなされた賃借権は地上権の同様の機能を有するため、登記がなされていれば可能であると考える。

   したがって、乙地について賃借権登記がなされていれば、XはZに上記請求を行うことができる。

 2 次に、Xは乙地の使用収益権を被保全債権として、Yの乙地所有権に基づく妨害排除請求権を代位行使(423条1項)し、Yに柵の撤去を求めることが考えられる。

  (1) まず、かかる債権者代位権の転用が認められるか問題となるも、債権者代位権には「全ての債権者のため」(425条)のような文言がないため、可能であると考える。

  (2) また、あくまでも債権者代位権の転用の場面であるため、債務者の資力の有無は問題とならないと考える。

  (3) したがって、XはYに上記請求を行うことができる。

3 また、XはXY間の賃貸借契約に基づいて乙土地を占有しているため、Yに対して占有保持の訴え(198条)により柵の撤去を請求することができる。

第2 問2

 1 まず、XY間の賃貸借契約においては、1m2単価1000円として月額330万円の賃料をXが支払う合意がされているところ、乙地は3300m2ではなく3200m2であったため、Xが支払うべき賃料は月額320万円に減少する。

   そのため、XはYに対して賃料の減額請求(563条1項、559条、601条)を行うことが考えられ、かかる請求は認められる。

 2 次に、3200m2では賃借の目的である病院の開設ができないとXが考えた場合には、XはXY間の賃貸借契約を解除(563条2項、559条、601条)することができる。

 3 さらに、XはYに対して病院を開設できないことによって生じた損害の賠償請求(563条3項、559条、601条)を行うことが考えられる。

  (1) この点、損害の範囲については416条が規定しているところ、同条の趣旨である損害の公平な分担の理念にかんがみ、同条1項は損害との相当因果関係について規定し、同条2項はその基礎となる事情について規定したものであると考える。

  (2) このことを元に本件においてXに生じた損害について検討する。

    まず、病院の設計変更に伴う600万円の費用については、賃借する土地の減少によって当然生じる通常損害であるといえる。

    また、病院開業の延期による1200万円の減収についても、賃借する土地の減少により病院が開設できない結果当然生じる通常損害である。

  (3) したがって、XはYに対して1800万円の損害賠償請求を行うことができる。

                                           以上

H27年度京大ロー入試行政法再現答案

※この頃の自分は判例知りませんでした(問1)(こいついつも判例知らずに爆死してんな)
点数は 28/50 でした。

 

第1 問1

 従来の判例は、理由提示の程度として、処分の原因となる事実及び処分の根拠条文を提示すれば足りるとしていた。

 これに対し、本判決は、従来の判例法理を維持しつつも、処分基準が行政機関において定められている場合には、上記事項に加え、いかなる処分基準の適用により処分が行われたのかも提示しなければならないと判示した。

第2 問2

 1 まず、設問を解く前提として処分基準の法的性質について検討するに、処分基準は処分を行うに際して行政内部の意思決定の基準となり、国民の権利義務について何ら制限を加えるものではないから、処分基準は行政規則である。

 2 そのため、行政庁が処分基準にのっとらずに裁量権を行使したとしても、それだけをもって直ちに裁量権の行使が違法となることはない。

 3 では、行政庁が処分基準にのっとって裁量権を行使した場合はどうか。

   まず、処分基準それ自体が違法であった場合には、処分基準にのっとって行われた裁量権の行使も違法となる。

   また、処分基準それ自体に違法性はなくとも、処分基準にのっとって行われた裁量権の行使について裁量権の逸脱・濫用が認められた場合には、かかる裁量権の行使は違法となる。

第3 問3

1 判例は、行政処分について手続的違法がある場合には、原則として当該行政処分は取り消されるべきであるとしつつも、軽微な違法に過ぎない場合には、取り消されるべきではないとしている。

2 私見としては、かかる判例法理に賛成である。行政処分は国民の権利義務に変動を来すものであるため、処分を受ける者の適正な手続を受ける権利は保護されるべきである。そうだとすれば、たとえ結論が妥当であったとしても、処分を受ける者のかかる権利を保護すべく、当該処分は取り消されるべきである。

  もっとも、手続的違法にも軽重様々なものがあるところ、軽微な手続的違法があるにすぎない場合にまで処分が取り消されるべきであると考えると、行政の円滑な運営を著しく害することになりかねず、妥当ではない。

  そのため軽微な手続的違法があるにすぎない場合には、処分は取り消されるべきではない。

  よって、上記の結論に至った。

以上

 

H27年度京大ロー入試憲法再現答案

※ロースクール入試の再現答案はあんまり出回ってなさそうなので、これから京大ロー受ける方は叩き台にでもしてください。中々の論パ貼り付け答案に仕上がっています。
ちなみにこの答案の点数は、63/100 でした。

第1問

1 本件において、Aは①売春勧誘罪(売春防止法(以下、売防法)はAの営業の自由を侵害し違憲である、②女子のみを対象とする補導処分制度は法の下の平等に反し違憲である、③売春勧誘罪は性交の自由を侵害し違憲である、との主張を控訴審で行うと考えられる。そこで、この点について検討する。

2 ①について

 (1) まず、Aは金銭を稼ぐために路上で勧誘を行っていたと考えられることから、かかる行為は営業の自由としての性質を有している。

   そして、憲法(以下法名省略)22条1項は職業選択の自由を選択しているところ、職業の選択を保障するのみでその遂行の自由を保障しなければ職業選択の自由の意味が失われるので、同項は職業選択の自由のみならず営業の自由も保障していると考える。

 (2) 次に、売春勧誘罪は罰則により勧誘を禁止しているので、営業の自由に対する制約も認められる。

 (3) もっとも、営業の自由も絶対無制約ではなく、公共の福祉(22条1項)による一定の制約を受ける。では、本件制約は公共の福祉として正当化されるか。

  ア この点、職業とは生計を維持する手段であるのみならず、自己の個性を全うする場として人格的利益と不可分の関係にあるため、営業の自由は重要である。

    また、本件制約は罰則をもって勧誘行為を禁止するため、規制態様も強度である。

    そして、本件制約は社会における善良な風俗の保護(売防法1条参照)という消極目的のためになされるため、社会的経済的政策といった積極目的の場合と比べて裁判所の審査能力は不十分とはいえない。

    そこで、審査基準は厳格に、①目的が重要で、②目的と手段との間に実質的関連性が認められる場合に限り、制約は正当化されると考える。

  イ これを本件について見ると、まず本件制約は社会における善良な風俗の保護にあるところ、国家は国内の治安・風俗を維持する義務を負っているため(福祉主義、25条以下)、かかる目的は重要といえる(①充足)。

    次に、本件制約は路上における勧誘の禁止であるところ、これにより売春行為が行われる機会が減少するので、本件制約と目的の間には適合性が認められる。

    また、本件制約が禁止するのは、売春という貞操を商品として市場で取引する社会的に許されるべきではない行為の勧誘行為であり、他の行為については何ら禁止するものではないから、最小限度の制約といえる。したがって、本件制約と目的の間に必要性も認められる。

    よって、目的と手段の間に実質的関連性も認められる(②充足)。

(4) 以上より、本件制約は正当化されるので、Aの主張①は認められない。

3 ②について

 (1) まず、14条1項は法の下の平等について規定しているところ、法適用の平等のみを保障し法内容の平等を保障していないとすれば、平等を保障する意味が失われるので、「法の下」の平等とは法適用のみならず、法内容の平等を含むと考える。

   また、各人には事実的・実質的差異があるので、法の下の平等とは合理的根拠に基づかない差別を許さないものであると考える。

 (2) では、本件補導処分制度は合理的根拠を有さないものとして許されないか。

  ア この点、本件制度は「性別」という歴史的に見て不合理な差別事由であるとして憲法14条1項後段が列挙した事由に基づいて処分を行うものである。

    そのため、審査基準は厳格に、①目的が重要であり、②目的と手段の間に実質的関連性が認められる場合に限り、本件制度は合憲となると考える。

  イ これを本件について検討すると、まず、本件制度の目的は、売春を行った女子に適切な措置を施すことで売春の再発を防ぐとともに女子の社会復帰をなすことにあり、かかる目的は重要である(①充足)。

    次に、売春の多くは生活のための日銭を稼ぐために行われるため、かかる女子に生活指導や職業補導を施すことによって売春の再発を防ぐことができるから、本件制度と目的の間には適合性がある。

    また、男子と比して女子は身体的にか弱く、また売春行為によって心身に傷を負っていることが多いため、女子のみを特別に手厚く保護する必要がある。

    したがって、本件制度の目的の間に実質的関連性も認められる(②充足)。

(3) よって、本件制度には合理的根拠が認められるため、Aの主張②も認められない。

3 ③について

 (1) まず、性交の自由は憲法上列挙されていないが、憲法13条は人格的生存に不可欠な権利を憲法上保障したものと解されるので、性交の自由が人格的生存に不可欠な権利であるかを検討する。

   この点、性交は生殖行為であるとともに、男女の仲を深めるという意義を有している。

   もっとも、性交はそれなしでは生きていけないというほど重要な行為ではないので、人格的生存に不可欠とはいえない。

   したがって、性交の自由は13条により保障されない。

 (2) また、13条は憲法上保障されない権利の制約は必要性及び相当性が認められない限り許されないことを規定した客観法であるという見解がある。

   しかし、前述のように善良な風俗を保護する必要性はあり、また禁止される行為は「売春」の勧誘行為に限定されるから相当性も認められるので、やはり売春勧誘罪は13条に反しない。

 (3) よって、Aの主張③も認められない。

4 よって、Aの主張はすべて認められないので、裁判所は売春勧誘罪及び補導処分制度について合憲の判断を下すべきである。

 

第2問

1 本件規律は政党の自律性を侵害し違憲ではないか。

 (1) まず、憲法上政党について明文で定めたものはないため、前提として政党の性質について検討する。

   この点、我が国の議会制民主主義においては、政党は民意を媒介するものとして重要な役割を有している。

   また、議席を一番多く有する政党の党員は内閣の構成員として行政を行うので、政党は権力性を有している。

   そのため、政党は公的な側面を有しているといえる。

   他方で、政党は結社の自由(憲法(以下法名省略)21条1項)の下、自由に結成できる私的団体でもある。

   そこで、政党は公的側面と私的側面の両方を有する複合的な存在であると考える。

 (2) では、本件規律は政党の自律性を侵害するか。

  ア この点、政党の公的側面を重視すれば、あらゆる規制が許されるようにも思える。

    もっとも、前述のように政党は本来自由に作ることのできる団体であるところ、あらゆる規制を認めては政党内の団体自治を過度に制約することになり妥当ではない。

    そこで、政党への規制は、(1)規制の必要性があり、かつ(2)その方法に相当性がある場合にのみ認められると考える。そして、①・②を満たさない規制は、政党の自律性を侵害するものとして21条1項に反し違憲となると考える。

  イ これを本件について検討する。

    まず、本件規律は、政治資金の公明性を確保し、民主政治の健全な発展に寄与することにあるところ、民意の媒介機能を有する政党が、政治資金を提供した特定の企業ないし個人に便益を図るような活動をすることでかかる機能を果たさないおそれがあるため、政治資金についてある程度の規律を及ぼす必要性は認められる((1)充足)。

    また、本件規律は政党に①~③の事項について総理大臣に報告する義務を課しているところ、政治資金パーティーの対価と称して多額の政治献金がなされる可能性があることから、少なくとも③については支払いをした者の氏名、支払額および支払日時を求めたとしても不相当ではないと思われる。

    しかし、①について、党費を納入した者の名前を明かすことは、その者が党費を納入した党を支持していることを明るみにすることに他ならない。政党を支持することは、その者の思想観・価値観に基づいて行われるものであり、思想・良心の自由(19条)により保障されるものであるところ、①はまさにその者の内心を暴露させるものにほかならず、思想・良心の自由を侵害するものである。

    また、②についても、党へ寄附を行うことはその者の思想観・価値観に基づいて行われるものであるため、同じく思想・良心の自由により保障されるものであるところ、②はその者の内心を暴露させるものにほかならない。確かに、現代社会における企業の社会的・経済的影響力の大きさにかんがみれば、企業・法人レベルについては寄附の内容等を公表することを義務付けても相当性が認められる余地はあり得る。しかし、②は企業・個人を問わず寄附をした者の氏名等の報告を義務付けるものであるため、少なくとも個人レベルではやはり思想・良心の自由を侵害するといえる。

    そして、①・②があることによって、党費や寄附金を支払う者が侵害を回避するために党費・寄附金の支払いをためらう結果、政党な活動に際して十分な資金を得られなくなり、活動に支障をきたすことになりかねない。

    したがって、①・②については相当性が認められない((2)不充足)。

2 よって、本件規律は政党の自律性を侵害し、違憲である。

 

H29予備試験民法再現答案

※司法試験だけじゃなくて他の答案上げたりしてみたら?というアドバイスを頂いたので、予備の再現答案でもUPしてみようかと思います。ちなみに予備の再現答案は民法だけ書いてました(他の科目はもう再現も無理かな……(忘却の彼方))。
 評価はAです。ロースクールでイジメられ…鍛えられたおかげですね。こんなんでもA来るんだと感じて頂けたら幸いです。

第1 設問1

1 CはAに対して甲建物所有権(民法(以下法名省略)206条)に基づく本件登記の抹消登記手続請求を行っているところ、かかる請求が認められるためには、①Cが甲建物を所有していること、②甲建物にA名義の登記があることを満たす必要がある。本件では②は問題なく認められる。①については、BC間の売買契約(555条)により甲建物所有権をCが取得したことを主張する。

2 Aの反論等

 (1) Aは甲建物の所有権はAにあるため、BC間の甲建物売買契約は他人物売買(560条)であり所有権はCに移転していないと反論することが考えられる。本件ではBC間売買以前にAB間で甲建物の売買が行われているため、この時点で所有権はAに移転する(176条)ため、Aの反論は認められそうである。

 (2) これに対して、Cは、AB間の売買契約は不動産譲渡担保によるものであるため、所有権はAに移転しておらず、被担保債権をCが弁済供託したことで担保権すら消失したと主張する。

   譲渡担保の法的性質については争いがあるが、実質は債権の担保にあるため、譲渡担保設定により譲渡担保権者は一種の担保権を取得し、所有権はなお設定者に属すると考える。

   もっとも、本件では被担保債権であるAのBに対する貸金債権は架空のものであり、また、Aは書面の意味がわからないまま契約書に署名・押印していることから、AB間で譲渡担保契約はそもそも成立していない。そのため、Cの再反論は奏功しそうにない。

 (3) そこで、Cは、94条2項類推適用により、AはAB間の売買契約が譲渡担保契約であることをCに対抗できない結果、CはBC間の売買契約により甲建物の所有権を取得し、弁済供託によりAは担保権すら喪失すると主張する。

  ア 94条2項の趣旨は、虚偽の外観作出につき真の権利者に帰責性のある場合に、真の権利者の犠牲の下、虚偽の外観を信頼した第三者の取引安全を保護することにある。そこで、①虚偽の外観の存在、②①につき真の権利者の帰責性、③①につき第三者が信頼したことを満たせば、同項を類推適用できると考える。

  イ まず、甲建物につき譲渡担保を登記原因とする本件登記がされており、また、譲渡担保契約書にはAの署名・押印がなされていたことから、譲渡担保契約の成立という虚偽の外観が認められる(①充足)。また、署名・押印行為はAの意思によることから、Aの帰責性も認められる(②充足)。

    では、③は認められるか。本件のように真の権利者が虚偽の外観作出につき積極的に関与した場合には、110条を類推適用し、第三者が虚偽の外観につき善意無過失であったことを要すると考える。本件でCはAB間の譲渡担保契約が虚偽であることを知らなかったが、知らなかったことにつき過失はあった(設例指示)。したがって、③は認められない。

  ウ よって、Cの上記主張は認められない。

3 以上から、甲建物の所有権はなおAにあるため、Cの上記請求は認められない。

 

第2 設問2

1 CE間の法律関係

  本件では、CD間でCを貸主、Dを借主とする甲建物賃貸借契約(601条)が成立し、DE間で甲建物の転貸借契約(612条1項)が成立しているところ、CD間の賃貸借契約は合意により解除されている。DE間の転貸借契約はCD間の賃貸借契約を前提とするものであり、CE間では何らの契約関係もないことからすれば、CはEに対して建物の明渡しを請求できるようにも思える。

  しかし、このような請求が認められるとするのは、原賃貸借継続中は目的物の使用収益ができるという転借人の合理的期待を一方的に裏切るものであり、妥当ではない。また、原賃貸人としても、転貸借について同意をしている以上は、転貸借契約終了までは、転借人が目的物を使用収益することを当然覚悟していたというべきである。

  そこで、原賃貸借契約が合意解除された場合には、原賃貸人は転貸人たる地位をそのまま受け継ぎ、原賃貸人と転借人との間で賃貸借契約が成立すると考える。

2 CのEに対する請求

  CはEに対して甲建物を明け渡すか、賃料を25万円に増額することを請求している。しかし、前述のようにCは転貸人たる地位をそのまま受け継ぐから、かかる請求を行うことはできない。

3 EのCに対する請求

  EはCに対して、建物修繕費用の償還請求(608条1項)を行っている。確かに、賃貸人は賃借人に対して修繕義務を負い(606条1項)、賃借人が修繕費用を支出したときは、これを償還しなければならない。

  しかし、本件でEが修繕費を支出したのは、未だDE間で転貸借契約が成立していた段階であり、この段階ではCはEに対して何らの義務も負っていなかった。また、甲建物の修繕につきCはDに修繕義務を負うはずだが、この義務はCD間の特約により排除されていた。転貸人たる地位の承継については、転借人保護の観点からは将来効で十分であり、既に発生した債権債務についてまで引き継がれるわけではないというべきである。

そのため、本件修繕費の支出については、償還義務を負うのはDであり、Cではない。

したがって、Eの上記請求は認められない。

 

H30司法試験刑事訴訟法再現答案

※差がつかないオーソドックスな問題だったから逆に差をつけられてしまった好例

 

設問1

第1 下線部①の適法性

1 強制処分該当性(刑事訴訟法(以下法名省略)197条1項但書)

  下線部①は、公道上で、甲の顔を撮影するものであるが、これが強制処分(197条1項但書)に当たる場合、強制処分法定主義、ひいては令状主義(憲法35条)に反し違法となるため、この点について検討する。。

(1) 強制処分とは、相手方の明示又は黙示の意思に反して重要な権利・利益を実質的に侵害する処分をいう。重要な権利利益ついては、強制処分法定主義と令状主義という二重の制約による保護に値するものであることを要するというべきであるから、住居等の平穏(憲法35条)や身体の自由(憲法38条)のような利益やこれに準じたものかを見て判断する。

(2) 本件撮影は、甲の同意なく行われたものであり、また、甲が同意をするとは考えられないものであったから、甲の黙示の意思に反して行われたものといえる。また、撮影内容は事務所から出てくる甲の顔を撮影するというものであり、甲のプライバシー権(憲法13条)に対する一定程度の制約が認められる。

  もっとも、本件撮影は公道上で事務所から出てきた甲を撮影したものであり、顔などが見られることは甲も受忍していたといえるから、かかるプライバシーの要保護性は低い。そして、それ以上に甲の権利利益が制約されているという事情もない。

  そうすると、本件撮影は甲の重要な権利利益を制約するものとはいえない。したがって、本件撮影は強制処分に当たらない。

2 任意処分の限界

 (1) そうすると、本件撮影は任意処分(197条1項本文)として行われたということになる。もっとも、任意処分といえども無制約ではなく、捜査比例原則(197条1項本文)から、必要性、緊急性を加味しつつ、社会通念上相当な範囲でのみこれを行うことが許容されると考える。

 (2) 本件撮影は、詐欺の被害者であるVに、詐欺の犯人と思われる甲の顔を確認させるために行われており、必要性が認められる。確かに、面通しを行うのであれば、ビデオカメラによるのではなく、写真によって行うのでも十分足りるように思える。しかし、Vは2度にわたり犯人と接触していることから、静止画よりも動画の方がより判別が期待できるといえるから、ビデオカメラによる撮影であったとしても、相当な範囲を超えるものとはいえない。また、撮影は公道上から、20秒という短時間で行われたものであるから、相当な範囲を超えない。

   したがって、本件撮影は任意処分の限界を超えない。

3 よって、下線部①は適法である。

第2 下線部②の適法性

1 強制処分該当性

下線部②の強制処分該当性についても、前述の基準から判断する。

  下線部②の撮影も、甲の同意なく行われたものであり、甲の黙示の意思に反して行われたものである。また、本件撮影は、下線部①のものとは異なり、採光窓を通して甲の事務所内を撮影するものであるから、住居の平穏(憲法35条)を害するものといえ、重要な権利利益の制約も認められるとも思える。

  もっとも、本件撮影は本件事務所の向いのマンション2階通路から行われたものであるところ、通路から採光窓を通して本件事務所内は見通すことができ、甲としても通路から事務所内が見えることは受忍していたといえるから、かかる範囲で住居の平穏の要保護性は低いといえる。また、撮影態様も、ドローンを飛ばすなどの方法ではなく、通路側から見える範囲で撮影したにとどまる。

したがって、本件撮影も強制処分に当たらない。

2 任意処分の限界

  では、本件撮影は任意処分の限界を超えないか。

  本件撮影は、下線部①の撮影では犯人が甲であるとの確証を得ることができなかったことから、犯人が持参した工具箱と甲の所持する工具箱が同一であるかをVに確認するためになされていることから、必要性は認められる。また、撮影態様についても、わずか5秒、事務所内の工具箱を撮影したにとどまり、その他事務所内の物を写して甲のプライバシーを侵害しないよう、配慮がなされているから、相当な範囲を超えない。

  したがって、任意処分としての限界も超えない。

3 よって、下線部②も適法である。

設問2

第1 小問1

1 伝聞証拠該当性(320条1項)

本件メモは、公判期日外におけるVの証言を内容とするものであるから、これが伝聞証拠(320条1項)に当たる場合、原則として証拠能力が否定される。そこで、本件メモが伝聞証拠に当たるかにつき検討する。

 (1) 伝聞法則の趣旨は、供述証拠は知覚・記憶・叙述の過程を経て事実認定者に伝わるところ、各過程には勘違いや言い間違えなどの誤りが介在するおそれがあるため、反対尋問等によりその正確性を吟味する必要があるが、伝聞証拠は原供述者に対して反対尋問等をすることによってその正確性を吟味することが不可能であるから、誤判防止のため、あらかじめ証拠能力を排除することにある。

   そうすると、伝聞証拠とは、公判期日外の供述で、要証事実との関係からその内容の真実性が問題となるものをいうと考える。

 (2) 本件メモは、前述の通り公判期日外においてVが作成したものである。また、Qは立証趣旨を「甲が、平成30年1月10日、Vに対し、本件メモに記載された内容の文言を申し向けたこと」として本件メモを取調べ請求しているところ、甲は犯行を否認していることから、要証事実も立証趣旨と同様である。そうすると、本件メモの内容の真実性が問題となるため、本件メモは伝聞証拠に当たる。

   したがって、本件メモは伝聞証拠に当たるため、原則として証拠能力は認められない。

2 伝聞例外該当性(321条以下)

 (1) Vの供述部分

   では、伝聞例外により例外的に証拠能力が認められないか。本件メモの証拠調べについて、甲は不同意としていることから、326条1項によることはできない。そこで、321条1項3号により伝聞例外が認められないかについて検討する。

  ア 供述不能について、同号は原則として証拠能力が認められない伝聞証拠に例外的に証拠能力を認める規定であることから、一時的な供述不能では足りず、一定程度継続するものであることを要すると考える。

    本件では、Vは脳梗塞により意識が回復する見込みはなく、仮に回復したとしても、記憶障害により取調べは困難であるとの診断がなされており、「身体の故障」が一定程度継続するものと認められるので、供述不能事由は認められる。

  イ 次に、欺罔行為の立証に当たっては、欺罔行為を受けたVの供述の他は、決定的な証拠は現在のところ存しないことから、「犯罪事実の存否の証明に欠くことができない」ものといえる。

  ウ では、特信情況は認められるか。ここでの特信情況は、321条1項2号の特信情況とは異なり、供述がなされた状況のみからその有無の判断が行われる絶対的特信情況である。

    本件メモは、Vは詐欺の犯人がV宅を訪問したその日に作成されたものであり、また、翌日に警察署に提出して保管されていたものであるから、第三者により書換がなされる余地もなかった。また、Vに虚偽の内容を書く動機もなかった。

    したがって、絶対的特信情況も認められる。

  エ よって、本件メモのうち、V供述部分は、321条1項3号により証拠能力が認められる。

 (2) 「男」の供述部分

   本件メモには、Vが聞いた「男」の供述も含まれており、いわゆる再伝聞に当たるようにも思える。もっとも、「男」の供述部分については、発言それ自体から欺罔行為があったことを認定するものであり、発言内容の真実性は問題とならないから、非伝聞であるというべきである。これと、「男」が甲であることを他の証拠により立証できれば、甲が欺罔行為を行ったことを認定できる。

   なお、このような他の証拠により「男=甲」であるとの立証無しに、男が甲であることを前提とする場合には、甲が発言を行ったことが前提となっているため、実際に甲が発言を行ったか内容の真実性が問題となるため、再伝聞に当たる。この場合、324条を準用したとしても、伝聞例外の要件は満たさないと思われる。

第2 小問2

1 立証趣旨を「100万円を受け取ったこと」とする場合

 (1) 当事者主義の下、検察官の立証趣旨は尊重すべきであるから、まずはQの立証趣旨から本件領収書の証拠能力が認められるかについて検討する。

   本件領収書は、公判期日外において作成されたものである。また、甲は犯行を否認していることから、要証事実は立証趣旨と同様となる。そうすると、本件領収書は、要証事実との関係で、内容の真実性が問題となるため、伝聞証拠に当たり原則として証拠能力は認められない。

 (2) そこで、伝聞例外該当性について検討する。本件でも甲は証拠調べを不同意としているから、326条1項によることはできない。また、本件領収書は機械的・連続的に作成されたものではないから、業務文書(323条2号)にも特信文書(同条3号)にも当たらない。そして、321条1項3号該当性も認められない。

   したがって、伝聞例外も認められず、本件領収書の証拠能力は否定される。

2 立証趣旨を「領収書の存在及び内容」とする場合

では、立証趣旨を「領収書の存在及び内容」とする場合、本件領収書の証拠能力は認められるか。

  この場合、領収書の内容の真実性は問題とならないため、非伝聞であり、証拠能力が認められる。

  この立証手法は、本件領収書が存在するということと、本件領収書に甲の指紋及び印影が存在することから、100万円の交付の事実を推認するものである。すなわち領収書とは、現金を受ける側が、渡す側に対して、受け取った事実を証明する文書として交付するものであるところ、かかる領収書に甲の指紋と、甲の認印の印影と合致する印影が検出されたということは、甲がVから100万円を受け取ったことを契機に、Vに対して領収書を渡したということが経験則に照らして合理的に推認できるのである。

  したがって、上記立証趣旨による場合、本件領収書の証拠能力は認められる。

3 なお、立証趣旨を「事件時の甲の心理状態」とする場合も、本件領収書の証拠能力は認められる。この場合、内容の真実性が問題となるも、心理状態供述は当時の被告人の心理状態を知る最良の証拠であるから、政策的に非伝聞として扱われるためである。

 

                                    以上

H30司法試験刑法再現答案

※妄想の産物

第1 設問1

1 乙がPTA役員会で「2年生の数学を担当する教員がうちの子を殴った」と発言した行為に、信用毀損罪(233条)は成立しない。同罪の保護法益は経済社会における人の信用であるところ、上記行為はかかる法益の毀損に向けられたものではないためである。

2 では、上記行為に名誉毀損罪(230条1項)は成立するか。

 (1) 上記行為はPTA役員会において発せられたものであるところ、PTA役員会に出席していたのは、乙を除くとA高校校長、保護者3名の4人に過ぎなかった。そのため、「公然と」事実を摘示したものとはいえないとも思える。

   もっとも、特定少数者に対して行われたものであっても、その特定少数者を介して不特定多数者に伝播する可能性が認められる場合には、外部的名誉への侵害の危険性が認められるので、「公然」性が認められると考える。

   乙は、PTA役員会にて、教員が生徒に対して暴行を行ったことを内容とする発言を行っている。PTAは教員と保護者の相互連絡の機会を持つ場であるところ、このような発言が仮に真実であるなら、教員と保護者の間の信頼関係は崩れるため、A高校校長としてもPTA役員の保護者としても、事実関係を明らかにするために周囲の教員や生徒に対して調査を行うことが考えられる。そうすると、上記行為により、A高校校長、PTA役員の保護者を介して不特定多数者に伝播する可能性が認められるから、「公然」性が認められる。

 (2) 乙は「2年生の数学の教員が」暴行を行ったと発言するのみで、それが丙であるとはしていない。もっとも、A高校の2年生の数学を担当するのは丙しかいなかったことから、実質的に丙が暴行を行ったと発言しているに等しいことから、具体的な「人の」名誉に向けられたものであるといえる。これにより、A高校校長を介して教員25名全員に丙が甲に暴力を振るったとの話が広まったため、丙の「名誉」は「毀損」されたといえる。

   そして、乙には同罪の故意(38条1項)も認められる。

 (3) したがって、上記行為は同罪の構成要件を満たす。なお、実際には丙は甲を殴ってはいなかったものの、摘示内容の真実性は230条の2で問題となるものであるから、構成要件該当性の時点では問題とはならない。

 (4) 丙は私人であるから、230条の2は検討の余地はない。

 (5) また、乙はPTA役員として、教員が生徒に暴行したとの問題があった場合には、速やかにこれを調査するよう学校に求める義務を負っているものの、本件では丙が甲に暴行を行ったとの事実自体虚偽であり、また、乙は丙への個人的な恨みから上記行為を行っており、義務の履行として行ったものではないから、正当行為(35条1項)による違法性阻却事由も認められない。

 (6) よって、上記行為に名誉毀損罪が成立する。

第2 設問2

1 甲が乙を放置した行為について、殺人未遂罪(199条、203条)と保護責任者遺棄罪(218条)のいずれが成立するか。

2 殺人未遂罪が成立するとの立場

 (1) まず、上記行為が「殺」す行為に当たるか。199条は「殺」すと作為形式で実行行為を規定していることから、不作為による殺人の実行行為が認められるかが問題となる。

  ア 実行行為とは、構成要件的結果発生の現実的危険性を有する行為をいうところ、不作為によってもかかる危険性を惹起することは可能であるから、不作為であっても実行行為たり得る。もっとも、およそ全ての不作為が実行行為たり得るとすれば、処罰範囲が拡大しすぎ、刑法の自由保障機能の観点から妥当ではない。

    そこで、不作為については、作為と構成要件的同価値性が認められる場合、すなわち、①作為義務があったにもかかわらず、これを怠り、かつ、②作為が可能かつ容易であったにもかかわらずこれを怠った場合に、実行行為性が認められると考える。

  イ 本件では、甲が乙を介助することは容易であるとの事情があるから、②については問題なく認められる。

 問題は①についてである。作為義務の発生根拠は、法令のみならず、契約や慣習、条理等からも求められる。本件で、乙は甲の父であったところ、家族は共に扶け合うべきであるとの考えが我が国においては定着していることから、甲は条理上、乙を介助する義務を負っていたといえる。また、乙が倒れていたのは夜間人通りのない山道脇の駐車場であり、周囲に人もいなかったことから、乙の生命の安全は甲の排他的支配下にあったといえる。そうすると、甲には、乙を介助する義務があったといえ、甲はこれを懈怠しているから、①も認められる。

  ウ したがって、放置行為に実行行為性は認められる。

(2) 放置行為を行った時点で、乙の生命侵害に対する現実的危険が惹起されたといえるから、「実行に着手」(43条本文)したものと認められる。甲は死亡していないから、既遂ではない。

(3) そして、甲は、乙が崖から転落する危険があることを認識しながら、それでも構わないとして乙を放置しているため、未必の故意が認められる。

 (4) よって、上記行為に殺人未遂罪が成立する。

3 保護責任者遺棄罪成立論者からの反論

  上記行為に保護責任者遺棄罪が成立するとの立場からは、上記行為に殺人の実行行為性が認められないとして、殺人未遂罪は成立しないと反論することが考えられる。

 (1) 確かに、家族は共に扶け合うべきであるとの考えが我が国においては定着していることから、条理上、甲は乙を介助する義務がある。もっとも、義務違反が殺人罪の実行行為たり得るためには、義務違反により人が死亡する現実的危険性があるといえる程度のものである必要がある。

   本件では、乙は意識を失っていたものの、怪我の程度は軽傷であり、この怪我によって乙が死に至る可能性は無かった。また、乙が倒れた場所と崖からの距離は10メートルと離れており、乙が目を覚ました後直ちに崖下へ転落する蓋然性も無かった。そうすると、本件介助義務は、介助義務違反により、乙が死亡する現実的危険性があるといえる程度のものではなく、作為との構成要件的同価値性が認められないというべきである。

 (2) また、排他的支配についても、判例は行為者が先行行為等により生命への危険を生じさせた場合に、排他的支配の有無を重視しているところ、本件では甲は乙に対して何らの先行行為を行っていないから、このことからも、作為義務は否定する方向に働く。

 (3) 以上から、上記行為に殺人未遂罪は成立しない。

   そして、上記行為は、介助義務という「保護する責任のある」甲が、「病者」である乙を放置するという「必要な保護をしなかった」ものであり、故意も認められることから、かかる行為に保護責任者遺棄罪が成立する。

   私見もこれに従う。

第3 設問3

1 甲の主張は、換言すると、丁を救助する義務はないため、丁を放置した行為は「殺」す行為に当たらないから、殺人未遂罪は成立しないというものである。これは、いわゆる不能犯を主張するものと解釈できる。

2 殺人未遂罪が成立するとの立論

 (1) 実行行為とは、構成要件的結果発生の現実的危険性を有する行為であるところ、行為は主観と客観の統合体であるから、かかる危険性の有無を判断するにあたっては、主観も考慮すべきである。そして、構成要件は一般人に規範として与えられているから、主観は一般人を基準として判断を行うべきである。

   したがって、行為時に一般人が認識し得た事情を基礎にして,当該行為の危険の有無を判断すべきであると考える。

 (2) 本件では、丁と乙は体格や着衣が似ており、夜間で街灯がなく暗かったことから、丁と乙の見分けがつかない状況であった。そうすると、一般人を基準とすると、甲が放置したのは乙であったということになり、親である乙に生じた危難から救助する義務を懈怠する行為には乙の死亡の現実的危険性が認められるので、かかる放置行為に実行行為性が認められる。

 (3) また、甲は主観では乙を放置し、客観では丁を放置しているものの、前述の検討を踏まえると、両者は共に「甲が救助義務を負う者」として重なり合いが認められるので、故意は問題なく認められる(具体的事実の錯誤)。

 (4) したがって、放置行為に殺人未遂罪が成立する。

                                    以上

 

H30司法試験民事訴訟法再現答案

※設問1で面食らって設問2で大外しして設問3で諦めた答案です。

第1 設問1

1 課題(1)

 (1) Bの訴えの訴訟物

   BはAに対して、150万円を超えて債務がないことの確認を求める訴えを提起しているところ、債務不存在確認請求は給付請求の反対形相であることから、訴訟物は「自認額150万円を除いたその余の不法行為に基づく損害賠償請求権(の不存在)」である。

   なお、Bは債務総額を明らかにせずに訴えを提起しているものの、債務については被告たる債権者が一番よく知っているはずであるから、訴状・一件記録から訴訟物を特定できる場合には、総額を明らかにしない場合であっても問題はないと考える。そして、本件Bの訴えは、訴状の請求の趣旨から、本件事故に係る不法行為に基づく損害賠償請求権が訴訟物であると特定できるため、問題はない。

 (2) 二重起訴該当性

   Aの本件訴えはBの訴えとの関係で二重起訴(民事訴訟法(以下法名省略)142条)に当たり、許されないのではないか。

  ア 142条の趣旨は、同一請求を二度にわたり審査することにより生じる訴訟不経済や、訴訟物につき矛盾した判決がなされることを防止することにあるから、「事件」の同一性は、①当事者及び②審判対象の同一性の有無により判断するものと考える。なお、審判対象の同一性について、審判形式が同一であることまでは必要なく、訴訟物が同一であればよいと考える。

  イ Aの本件訴えとBの訴えは、原告被告が入れ替わっただけで共にAとBあり、当事者の同一性は認められる。また、Aの本件訴えの訴訟物もBの本件訴えの訴訟物も共に本件事故に係る不法行為に基づく損害賠償請求権であるから、審判対象の同一性も認められる。

    したがって、Aの本件訴えはBの訴えと「事件」の同一性が認められるため、二重起訴に当たるため、不適法とも思える。

 (3) Bの訴えにつき、確認の利益の欠如

   もっとも、Aが本件訴えを提起したことにより、Bの訴えは確認の利益を欠くことになる。

   訴訟は有限の司法資源により行われる営みであるから、真に紛争解決の必要がある訴えを吟味するため、提起される訴えには訴えの利益が存することが必要となる。特に、確認の訴えはその性質上対象無限定に広がるおそれがあり、執行力もないことから、訴えの利益の有無が特に厳格に吟味される。

   そして、Bの訴えは、執行力が付与されるという点で、Aの本件訴えの方がより適切であるといえるから、方法選択の適切性を欠き、確認の利益を欠くことになる。

   したがって、Aの訴えは二重起訴禁止に抵触するものの、適法なものと扱われる。Aの本件訴えとBの訴えは同一の乙地裁に係属しているから、この場合、両訴えは併合されることとなる。

 (4) Cを共同被告とすることの可否

   Cを共同被告として訴えを行うには、「訴訟の目的である権利又は義務が数人について共通であるとき」(38条)といえる必要がある。本件訴訟物である不法行為に基づく損害賠償請求権の原因となった本件事故は、BとCが衝突したことによって生じたものであり、CはBと共にAに対して共同不法行為責任を負うものと考えられるから、上記要件を満たす。

   よって、Cを共同被告として本件訴えを行うことは可能である。

2 課題(2)

 (1) 管轄について

   まず、Aの本件訴えは、不法行為に基づく損害賠償請求であるから、不法行為地である乙市を管轄区域とする乙地裁に管轄権が認められる(5条9号)。

   また、被告の住所地を管轄する裁判所にも管轄権が認められるところ(3条の2第1項)、Bの住居地は乙市であり、Cの住居地は甲市であるから、甲市を管轄区域とする甲地裁にも管轄権が認められる。

   したがって、Aは普通裁判籍を理由に甲地裁に訴えを提起することができる。

 (2) 本件訴えの適法性について

   課題(1)と同様、二重起訴、確認の利益が問題となる。そして、本件ではAの訴えが甲地裁、Bの訴えが乙地裁に係属していることから、両訴えを併合することはできない。もっとも、紛争の終局的解決の見地からは、Aの本件訴えこそ存続すべきであるから、Bの訴えが不適法として却下され、Aの訴えは認められる。

   なお、裁量移送(17条)により、Bの訴えを甲地裁に移送することで両訴えを併合する余地はある。

第2 設問2

1 文書提出義務

  Bは文書提出命令の申立てを行っているところ、Dは220条各号列挙事由に該当する場合には、文書提出命令を拒むことはできない。そのため、Dは、同条各号該当性を主張して、診療録の提出を拒もうとすると考えられる。

  本件では、同条1号~3号該当事由は認められない。そのため、Dが提出義務を負うかは、一般提出義務を定める4号に該当するか否かによる。Bとしては、4号イ~ホのいずれにも当たらないとして、Dに提出義務が認められると主張するだろう。

2 220条4号ニ該当性

  これに対して、Dは、本件診療録が220条4号(ニ)に該当するとして、提出義務は認められないと反論する。

 (1) 自己専利用文書該当性は、①非開示性及び、②文書が開示されることによって生じる不利益性から判断を行う。

 (2) 一般に、患者の診療の際に作成されるカルテは、当該患者の通院ないし再度の診療の際に医師が記憶を喚起するために作成されるものであり、専ら医師の利用のために作成される文書であるとも思える。もっとも、カルテは患者が保険会社に保険金の給付を請求する際に添付することが求められ得るものでもあり、ある程度開示が予定された文書であるといえるから、非開示性に乏しい。

   また、本件診療録にはAの病状が記載されているところ、病状に関する情報を開示することは、Aのプライバシーを侵害するため、不利益性は大きいとも思える。しかし、本件訴訟の争点となっているのは、まさにAの病状の程度なのであり、これを開示しても、Aのプライバシーはそれほど侵害されないといえる。また、他に開示によってDが被る不利益も存しない。

   したがって、本件診療録は自己専利用文書に該当しない。

3 よって、Dに提出義務が認められる。

第3 設問3

1 理由(ア)について

  理由(ア)は、換言すると、Bの控訴審からの補助参加は、補助参加の時的限界を超えるため不可能であるというものである。

  補助参加制度は、補助参加の利益を有する者に、他人の訴訟に参加し一方当事者を勝訴させるための活動を認める制度であるところ、控訴審であっても、第三者が訴訟に参加することで一方当事者を勝訴させることは可能である。また、補助参加人は、被参加人に対する従属性を前提とした独立性を有しており、上訴の提起を行うことも認められている(45条1項)。そして、控訴については、控訴期間は被参加人であるAを基準とするところ、本件では控訴期間を徒過したとの事情は無い。

  したがって、補助参加の時的限界を超えないから、理由(ア)は意味をなさない。

2 理由(イ)について

  理由(イ)は2通りの解釈が可能である。1つは、①Bには補助参加の利益が認められないため補助参加をすることができないというものであり、もう1つは、②BがAに補助参加をすることは、矛盾挙動として許されないというものである。

 (1) ①について

  ア 補助参加は、訴訟の結果について法律上の利害関係を有する場合に認められる。

    「訴訟の結果」とは、補助参加人にはそもそも既判力が及ばないことから、訴訟物に限定する必要はなく、理由中の判断も含まれると考える。

  イ 本件において、AのCに対する不法行為に基づく損害賠償請求が認められると、CはBと共にAに対して共同不法行為責任を負うこととなり、同責任に基づく損害賠償債務は不真正連帯債務と解されるから、BがAに対して債務を履行すると、BはCに対して求償権を行使することができるようになる。

    したがって、Bは訴訟の結果について法律上の利害関係を有するため、補助参加の利益が認められる。

 (2) ②について

  ア 確かに、Bは第1審では被告としてAと対立していたにもかかわらず、控訴審においてA側につくことは、矛盾挙動として信義則(2条)に反し認められないようにも思える。

  イ しかし、本件では、独立して控訴をすることができない事情があるから、A側につくことで訴訟の内容を争うしか方法がないため、矛盾挙動には当たらないというべきである。

    控訴は、控訴の利益がある場合にのみ行うことが可能とされるところ、控訴の利益の有無は、基準の明確性の観点から、申立内容と判決内容を比較し、前者が後者を上回る場合に認められると解される。

本件では、AのCに対する損害賠償請求が認められたとしても、BがAに対して150万円の損害賠償債務を負うことに変わりはないため、申立内容が判決内容を上回る場面ではない。そのため、控訴の利益が認められないから、Bは独立して控訴をすることができない。

    そうすると、Bが判決内容を争うためには、Aに補助参加を行うより他はないといえるため、矛盾挙動と評価はできない。

  ウ また、実質的に見ても、Bは第1審において自己の過失を一切争わず認めているから、Aに補助参加をしたとしても矛盾挙動とは評価できない。

 (3) 以上から、(イ)の理由も意味をなさない。

3 以上から、(ア)(イ)の理由は意味をなさないため、丙高裁としては、Bの控訴を適法として扱うべきである。